大阪フィルハーモニー交響楽団 第428回定期演奏会
大阪フィル定期に、庄司紗矢香が登場。以前に彼女を聴いたのは、どこか外国のオーケストラと共演したシベリウスのコンチェルトだったか。現在26歳の彼女は、間違いなく、次代のヴァイオリニスト界を担うひとになるだろう。スタイリッシュでありながら、あんなに妖艶で、濃密なヴァイオリンを弾ける人は、ちょっと他にいない。
そんな彼女が今回取り上げるのは、まさかまさかのリゲティ。バリバリの現代音楽。大阪フィルの定期でこの曲が取り上げられる日がくるなんて想像だにしなかったぞ。
指揮は、ドイツ出身のヨナス・アルバー。
- コダーイ ガランタ舞曲
- リゲティ ヴァイオリン協奏曲 (独奏:庄司紗矢香)
- ラフマニノフ 交響曲第3番
アルバーさんは、管楽器の旋律をかなり強調しているように聴こえる。それによって、かなり音楽の輪郭がはっきりしている印象をうけた。ストレートな歌が常に明確だからだろう。
最初の「ガランタ舞曲」は私の大好きな音楽。アルバーさんの指揮で聴くと、コダーイのにぎにぎしい作風が、とても勢いよく表現されていて楽しかったが、もうちょっと曲全体を通して盛り上がり方の起伏があったほうがよかったような気も少々。最初っから温度が高めだったので、後半はなんだか満腹中枢が飽和してしまって。
次は、お楽しみ、リゲティ。もう、間違いなく、典型的な現代音楽。旋律らしい旋律はなく、小編成のオーケストラと独奏ヴァイオリンは、キコキコピーピーと奇怪な音響を信号のように発し続ける。ときには、いわゆる平均律からずれた音階も平気で用いられる。古典的な意味での音楽的構成も認められない。
「こんなのは音楽ではない」というひとが大多数だろう(会場中、寝ているひと極めて多数)。私もちょっと前までそんなことを思っていたわけだが、最近になって、俄然この手の作品を面白く(というか、興味深く)聴けるようになった。ちょっと気になって20~21世紀の音楽作品を集中的に聴いていた時期があって、そのとき触れた多くの作品を通じていろんなことを考え、見方がかわったのだと思う。
例えばオーケストラ音楽であれば、楽団全体がひとつの旋律を安定した和音で支えながら奏でるのだけが「合奏」ではないのではないか、ということ。それこそが「合奏」だという発想は、極端に言えば、どこぞの国のような「全体主義」的発想であって、マスが同じ方向をむいて、同じことを叫ぶのが美しい、という独裁国家じみた価値観だけに基づいたものの見方でしかないんじゃないか。もちろん、その美しさを否定するわけではないが。
成熟した民主主義のもとで育った(ということにしておこう)我々には、もっと他の価値観に立った「合奏」の美しさも感じられる可能性があるんじゃないか、とある時ふと考えた。すなわち、個々はまるでバラバラに、自分の声で、自分の歌をうたう。そんな風に発される様々な歌が、四方八方で交錯することで、同時並列的に新しい波がおきる。それらは、ある場所では意外な形で共鳴して新しい響きをつくり、ある場所では思いもしない形で重なり合い、大きなうねりを生む。つまり、我々が今、現に生きている社会みたいに。
そういうのも、素敵な「調和」の形なんじゃないの、と気づいた瞬間、私のなかでなにかが変わったのだった。
今回演奏されたリゲティの作品も、まさにそういう視点から聴くと非常に共感できる作品だった。各楽器が発する音やリズムには、それぞれに微妙なズレがある。しかし、だからこそ、次々と新鮮な共鳴が立ち上がる。そのズレこそが奥行きであり、面白みなのだ。
庄司さんは、いつかこの曲をコンサートで弾きたいと熱望し続けていたらしい。その思いがストレートに伝わってくる、気迫の演奏だった。エロティックなまでの艶かしさと、集中力の高い鋭さが同居する彼女のヴァイオリンが、音楽にさらなる深みを与えていた。
後半は、ラフマニノフの交響曲第3番。ここ数年、大阪フィルはよくラフマニノフを取り上げるような気がするのだけれど、なにか意図があるのだろうか。私は大歓迎だけども。
アルバーさんは、やはりかなりクッキリした響きで、音楽のそれぞれの部分部分をバランスよく描いてみせる。ラフマニノフ特有の甘美な旋律を浮き上がらせながらも、いわゆる「ロシア風」のサウンドを意識している様子はまったくなく、どちらかといえば、オペラの序曲かなにかみたいに聴こえるのがちょっと不思議。それには、指揮者がここでも交響曲的な構成感よりは、「最初から全力疾走」を貫いて、一定の温度の高さを最初から最後まで通したから、というものあるかと思う。これまで、旧ソ連の楽団なんかが演奏した脂ぎった演奏でばかり聴いてきたので、これはこれで新鮮。ラフマニノフの交響曲は2番ばかり有名だけれど、やっぱり3番もいいなあ、と再確認した。
よくよく見直しみたら、今回演奏された曲は、3つとも20世紀に作曲されたもの。ベートーヴェンやモーツァルトももちろんいいけれど、今後もこういうの、積極的にお願いしますね、大フィルさん。




